カンボジアで働いている人の備忘録

24歳、なんかカンボジアで起業したみたいです(他人事)

会社に「辞めます」と辞表届を提出してきた話

あいつ、会社辞めるってよ

その日は朝礼という名の帰社日だった。社員の大部分が実質的に派遣プログラマである弊社にとって、互いの顔が見れる数少ないイベントである。

会社の面々に会うのも久しぶり。そんな中で退職話を切り出さなければいけない。気が重いのか軽いのかよく分からない気分だった。

直属の上司、同期、中堅社員には「海外で働くんで転職します」と既に数か月前に伝えている。他の社員に相談したっつー実績が欲しかったから。外堀を埋めるといた方が動きやすいような気がしたし。

ついでに同席する上司と辞意報告の際の口裏合わせもしておく。上司は立場上引き止めなければならない。以前から私が転職を考えているのを知っていたとすれば、会社からなぜ部下を引き止めなかった!という批判を受けてしまう。なので「引き止める暇なく急に辞めるとか言い出したんすわコイツ、マジないっすわ」というシナリオにしとく。

あとは社長部長に正式に辞意を伝えるだけ。

慰留されたり結論先延しされたら面倒だったので、退職届に「一身上の都合により、平成YY年MM月DD日をもって退職させていただきます」と書いた。これがないと退職時期がgdgdになりそうで怖いし。退職理由は口頭で伝えるつもりだったので、書面上は「一身上の都合」という表現で済ませた。

唯一面倒というか、タイミングが悪いというか。辞意を伝えるその日は「来年度のことをみんなで考える会」みたいな集まりの次週だった。スケジュール的にここしか無かった。ファック。

全員の前で「来年の目標は××です!」と高らかに宣言しておいて、次週に「ごめん会社辞めるわ!」と言わなきゃいけない。笑える。いや笑えんわクソ。

まずは部長に辞意を伝える

朝礼の日。朝一で部長のデスクに向かう。私の背広の内ポケットには懐刀が、名刀・退職届が忍ばせてある。社畜一世一代の名刀であり、ひとたび振えばいとも容易く(自分の)クビを切り落とす魔剣。これ以上の武器はない。

「部長、大事な話があります。朝礼後にお時間いただいてもよろしいですか」

朝礼直前に声を掛けると、わかった、と部長は短く返事をした。「何の話をするつもりだ」とこの場で細かく聞かれなくて良かった。だからこそ朝のバタバタした時間に声をかけたんだけど。

中ボス、部長降臨。

朝礼後の会議室には、私、部長、直属上司の3人だけが残っていた。

「それで、話は」

やや重苦しい雰囲気の中、腕組みした部長が私に問いかける。時間掛けるのはイヤだったので、私はさっさと切り出すことにした。

「誠に勝手ながら、12月いっぱいで退職させて頂きます」

内ポケットから「退職届」と書かれた封筒を取り出し、部長の目の前に置いた。そして頭を下げつつ一言付け加える。

「申し訳ありません」

辞意と退職届をセットで。聞かれたこと以外は答えない。嫌味を言われたら「申し訳ありません」で返す。とにかくこのスタンスを貫くつもりだった。下手に取り繕って面倒なことになるのはイヤだし。

「この話知ってたか。お前」

部長は退職届を手に取り、中身を確認しながら直属上司に質問した。

「昨日の夜に、辞めるということだけは聞きました。詳しい話は今初めて聞きます」

少し困った様子で直属上司はそう答える。パイセンナイス演技。

部長は眉と口を尖らせながら「ふーん」とつぶやく。部長は退職届の中身を封筒に戻すと、再び腕組みをしてこちらに向き直った。

「なんで辞めるんだ」

「来年2月から海外で働くことにしました。現在の出向先の契約も12月で切れますし、時期的にもちょうどいいかなと思いまして」

「海外?」

「はい」

「海外って、どこに」

カンボジアです」

「どこだよそれ。ふーん、そうか...ううん」

部長はやや険しい顔で独り言のようにつぶやいていた。しばらくすると小さくため息をつき、頬をポリポリと掻きながらこう続けた。

「何を言っても妬み嫉みになるな。そうか、分かった」

「申し訳ありません。ありがとうございます」

「けどなぁ、人を雇うのにどれだけ金が掛かっているか。その辺分かってるよな」

「はい、自分勝手で...申し訳ありません」

「そうだよ。けど、まぁ...分かった、分かりました。今から社長を呼んでくる」

退職届をヒラヒラと左右に振りながら席を立ち、部長は会議室を後にした。

大ボス、社長顕現。

しばらくすると部長は社長と共に戻ってきた。社長の右手には私の退職届が握られている。

「お前辞めるのか」

会議室に入るなり、社長は淡々とした様子で私に問いかける。

「はい。海外で働くことに決めました。来年2月から」

社長は私の言葉にうんうんと頷きながら、ドカッと椅子に座った。そしてこちらに向き直って言葉を続ける。

「会社としてはな、正直なところ辞められるのは非常に痛い。非常に」

「...はい」

これは説教パターンに入ったか。社会舐めてるとか、中途半端なカスが偉そうなこと言うなとか、そんな感じのやつ。私は神妙な顔を装いながらそんなことを考えていた。

「ただ、ここからは俺個人として話をしよう」

「個人として?」

「うん。お前、今年で24だっけ」

「はい」

「俺はさ、そんぐらいの歳のうちに生活基盤を築いておくべきだと思うんだよ」

「...はい」

「だけどチャレンジは若いうちにしかできない。だったら俺は止めるなんてこともしたくない。いや、辞められるのは痛いんだけど。本当に」

「...」

「働いたのは2年弱くらいか?出会えたのも何かの縁だろう。そういう縁を俺は切りたくない。もしも海外がしんどくなったら、またココに戻ってくるといい」

「...ありがとうございます」

「別に戻ってくるつもりがなくても、近くに来た時は遊びに来い。それまでに会社が潰れてなけりゃいいけどな」

正直、予想外。まさかの叱咤なしの激励オンリー。あんだけ疑ってかかって申し訳ない。本当はもっとこじれると思ってた。

「ま、12月までしっかり働いてくれよ」

社長はナハハと笑いながら、私の退職届を内ポケットにしまった。

あっさりすぎてびっくり

こっちも意外なほどあっさり終わった。親への報告の時とおんなじだ。色々と考えてシャドーボクシングしまくっていざ決行してみたら、肩すかし食らうパターンのやつ。独り相撲って恥ずかしい。

よく考えてみたら辞める人間を罵倒したって、何も生まれないもんなぁ。転職サイトに悪評書かれたり、もし口論になるとお互い気分悪いし。「いつでも戻ってこいよ!」とか「おう!頑張れよ!」って言っといた方がお互いお得だろう。気持ちがスッキリするかどうかはおいといて。

何にせよ、社交辞令であれこういう送り出し方をしていただけるのは本当にありがたい。ほんの少し背中を押す言葉あるだけで、こんなに気が楽になれるとは。ほんと単純。

とりあえず12月いっぱい、今の現場でしっかり仕事してきます。