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カンボジアで働いている人の備忘録

24歳、なんかカンボジアで起業したみたいです(他人事)

ミラノダービーの思い出を振り返る

海外に引っ越すということもあって、要らない荷物を色々と整理してた。引き出しの奥にしまい込んでた思い出の品が、そりゃもうゴロゴロ出てくる。大抵は売るに売れないようなガラクタばっかだが。

その中のひとつがこれ。一応だけど思い出の品。

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これはイタリアのサッカー専門新聞、ガゼッタ・デロ・スポルト。セリアAの試合講評、選手評価、各種指標などを載っけている。私はサッカーに詳しくないが、結構辛口で有名らしい。ちなみに私はイタリア語なんか読めないので、何て書いてあるかは一切分からん。

日付は2013年12月23日。長友がインテルで初めてキャプテンマークを巻いた次の日の記事について書かれたものだ。

www.footballchannel.jp

ちなみに、その日の長友の評価は6.5。高いのか?

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これを見ると、旅行の思い出が頭に浮かんでくる。ミラノの街の雰囲気。スタジアムまでのワクワク感。ピッチに渦巻く熱気。次の朝に記念としてキオスクでこの新聞を買ったこと。今でもしっかり覚えている。

せっかくの機会だし、ちょっと当時のことを思い出しながら書き起こしてみる。

ミラノダービーの思い出

2013年12月22日、私はヨーロッパ旅行の途中でミラノに滞在していた。目的はミラノダービーである。ミラノをホームタウンを同じくするインテルACミランの、年内最後の激戦を観に行っていた。インテルホームの試合だが、ACミラン側のシートに座ったことを覚えている。

一緒に行ってた友人と「せっかくイタリアに行くんだし、人生で一回ぐらい生サッカー観ようぜ!」と盛り上がったのがきっかけだった。日本で事前に購入したチケットは7万ぐらい。今考えても高い。日本代表戦ぐらいしか観ない自分が、よくそんな金額をポンと出したなと思う。

ジュゼッペ・メアッツァスタジアムは、ミラノ市内から少し離れた閑静な場所にある。初めてこのスタジアム見たときの興奮、圧倒的なスケール感は今でも忘れられない。

その日ミラノダービーはナイターゲームだった。キックオフの時間まで、私は友人とミラノ市内を散歩していた。クリスマスのイルミネーションも相まり、日が落ちるほどにミラノ市内は輝きに満ちていく。途中でサッカーグッズの店を見つけたので、ACミランのチームカラーである赤黒のタオルマフラーを買った。ホントは長友が所属するインテルの青黒カラーが欲しかったが、私たちはACミラン側の席だったために諦めた。阪神の席に巨人のユニフォームで居座るのと同じようなもの。熱心なフーリガンに襲われたらどうしよう、と私たちは内心ビビっていた。

そうこうしている間に日が落ちる。にわかに華やぐ市内を横目に、私たちはスタジアム行きの郊外に向かう電車を待つ。冬の真っ只中、言うまでもなく気温は低いが、不思議と寒さは感じない。電車を待つ人々も同じようだった。みなそわそわと浮き足立っているのが分かる。どこに目をやっても、赤と青が揺れている。話す言葉が分からなくても、みな目的地は同じだということは一目瞭然だった。

ふと視線を感じ、私は横を向いた。青黒のユニフォームを着込んだ小学生ほどの少年と、彼と手を繋ぐ父親らしき男性と目が合う。少年はすぐに私から目を逸らすと、父親に何か耳打ちし始めた。なんだなんだと思っている内に、父親は少し困ったような様子で話しかけてきた。

「すいません。あの、日本人ですか?」

友人は私に目配せをした。言わずもがな、警戒しろという合図である。海外でわざわざ日本人に話しかけるようなヤツにロクなやつはいないというのが、私たちの共通認識だった。

「そうですけど」

私たちはやや素っ気なく答える。彼はもう一度息子の耳打ちに耳を傾けると、相変わらずの困り顔で私たちに話しかける。

「あの。この子が、"君たち何でミラニスタなの?"って言ってるんです。良かったら答えて頂けませんか」

彼の息子は青い瞳でこちらをじっと見つめている。私と友人は再び目を合わせる。何だこれ、という困惑である。

ミラニスタ?」

父親に聞き返す。すると、私たちのマフラーを指差しながら彼の息子が口を開く。

ACミランの、ファンのこと!」

少年の英語はたどたどしかった。父親は苦笑いである。私たちはこの状況に少し戸惑いつつも、少年の問いに答える 。

「ええと、今日のシートがACミラン側なんだ。だから私たちは今日だけミラニスタ。けど、インテルも好きだよ。ユート・ナガトモがいるから」

私たちの言葉を聞いた父親が、再び息子に耳打ちする。どうやら少年は英語が得意ではないらしい。私たちのつたない英語を、父親はイタリア語に翻訳して息子に伝えているのだろう。

耳打ちの途中から少年の顔がパァッと明るくなり、「インテリスタ!」と叫んだ。やれやれ、という表情の父親が私たちに再び話しかける。

「この子、ユートが大好きなんです。だから...」

「ユート、小さい。けど、スゴい!」

やや興奮気味の少年は軽く飛び跳ねながら、つたない英語で父親の話を遮る。よっぽど長友が好きらしい。ここでやっと質問の意味が理解できた。長友好きの少年からすると、インテルという日本人がいるチームがあるにも関わらず、日本人不在のACミランを応援している日本人が不思議に見えたんだろう。

「ユート、好きなの?」

少年に問う。

「うん!」

満面の笑みで少年は答えた。最初に疑ってた自分たちが申し訳ない。

そんなやりとりをしている内に電車が到着する。彼らと握手をして別れたのち、私たちは電車に乗り込んだ。車内はぎゅうぎゅう詰めである。到着するまでひたすらディープキスを繰り広げるカップルが目の前にいたせいで、ワクワク感がちょっと萎えたけど。

程なくして電車は目的地に着いた。すっかり夜である。駅の周りには建物は少なく、移動式のジューススタンドぐらいしか無い。

スタジアムまでの道は知らなかったが、私たちはとりあえず人の流れについていくことにした。小高い塀に沿って、薄暗く寂れた街路樹の間を早足で抜けていく。ちょこちょこ全力疾走している人たちに追い抜かされていく。テンション上がりすぎておかしくなったのか、私たちも理由もないのに全力疾走して彼らを追いかけた。

スタジアムから漏れる光であろうか、前方の空が淡く輝いている。どこか幻想的ですらあった。友人と一緒にうぇーいと叫びながら、変なテンションで光の方向に走っていく。気づけばその全貌が見えていた。

興奮で脳が退化していたのか、私たちは「でっけえ!!」「めっちゃ光ってる!!」「やっべええ!!」みたいなことを喚いていたような気がする。なんていうか、とにかく感動してた。手に握っていたチケットがぐしゃぐしゃになっていたことに気づいたときは、一瞬素に戻ったけど。

手汗で若干濡れたぐしゃぐしゃのチケットを、パスポートと一緒にガードマンに見せる。一瞬「は?」みたいな顔されたが、問題なく入場できた。よかった。

急いで構内を駆け上り、シートへ向かう。その間の風景は目に入らない。キックオフ前にも関わらず、通路ですら地鳴りのような音が腹に響いている。ピッチの光が漏れている。通路からスタジアムの内側に飛び出した。そこは熱気の渦中、真芯に吹き下ろす声援。圧倒的な雰囲気を前に、私たちは声も出なかった。ていうか息切れしてた。

ゴール裏が特に激しい。旗がたなびき、発煙筒が閃光と共に立ち上り、時たま謎の爆発音が響きわたる。あそこいたら死ぬんじゃないか?

半ば呆然としながら、サイドライン側のシートに着く。フーリガンみたいな乱暴なヤツがいたら怖いなと心配していたが、こっち側は実際はそんなことも無かった。一応ACミラン側の席だが、ちょこちょこインテルカラーの観客もいたし。そのあたりは結構寛容らしい。

私の隣にはじーさんが座っていた。ニット帽、マフラー、ジャケット、グラサン。その全てが赤黒のACミランカラーである。気のせいかもしれないが、直感的に阪神ファンのおっさんと似た雰囲気を感じた。こういうのって万国共通なのか。

そのまた向こうにもじーさんが座っている。こっちは全身インテルカラー。ミラニスタインテリスタが隣同士で座ってる。なんだこの図。しばらく様子を見ていたが、どうやら知り合いでもないらしい。試合展開によっちゃケンカもあり得るんじゃないか、これ。怖ぇよ。

内心ハラハラしていると、ミラニスタじじいがちらちらとこっちを見てくる。やっぱりアジア人てここじゃ珍しいのか?とか考えていると、案の定話しかけてきた。なんか酒臭いぞ。

「よう、日本人か?お前らミラン好きなのか?」

どっかで聞いたような質問が飛んでくる。非日常で気がデカくなった私は、気分良く答える。

「今日はミラニスタだけど、インテルも好きなんだ。これってOK?」

一瞬怒ると思ったが、意外にもミラニスタじじいはガハハと笑った。ていうか酒臭ぇ。

「サッカー好きはみんな友達だ!OKさ!そうだろ、なぁ!」

そういう言うや否や、ミラニスタじじいは横のインテリスタじじいの肩を抱く。おいおいマジか。ガクガク揺られながら、インテリスタじじいは無言のまま苦笑いで頷く。ちょくちょく何言ってるか分からんかったが、まぁいいか。

なんやかんやしてる間にキックオフの時間が来る。張り詰めたその瞬間は、ブーイングとか声援とか色々混ざったカオスな雰囲気だった。

ゲームが始まると、その雰囲気はJリーグの試合とは全く異なっていた。日本のようにプレー中にチャントを歌い続けるようなことはしていない。熱狂的な観客達は声援、ブーイング、歓声を存分に張り上げているが、ことインプレー中に関してはとても静かだったことだ。まるでテニスの試合を観ているかのような緊張感を持って、ピッチを見つめていた。ゴール裏はその限りではないが。

結果から言うと、ACミランは負けた。私たちはミラニスタとして歓声を上げることはなかったのである。

footballingtube.blog93.fc2.com

警備員たちも試合中は普通に通路に座り込んで観戦している。警備しろよ。終盤は私たちもその中に混じり、ピッチに近い前線の通路で試合を観ていた。座席位置とかガン無視である。インテリスタが多い場所だったのもあり、勝利の瞬間やチャントの盛り上がりは十分に味わえた。歓声に押しつぶされそうになったのは、後にも先にもこれっきりだろう。

私はサッカー通ではない。日本代表戦しか観ないし、セリアAの選手も長友とバロテッリぐらいしか知らない。そんなニワカ野郎でも、十分過ぎるほどに現地観戦は楽しめたのだ。アホほど高い金を払ったことに微塵の後悔もないほどに。

人生長いし、あと一回ぐらい海外リーグのダービー戦を生で観たいな、うん。