カンボジアで働いている人の備忘録

24歳、なんかカンボジアで起業したみたいです(他人事)

カンボジアの大学生が作ったプレゼン資料を見てみた。ビックリとガッカリな印象。

ふと「こっちの大学生ってどんなことしてんだろうなー」と思い、プノンペンの色んな大学のサイトを眺めてた。その中のひとつであるNational University of Management、通称NUM。これって国立経営大学って訳していいんだろうか。そこで面白そうなものを見つけた。

National University of Management

クメール語が読めないので細かいとこまでは分からないが、Google翻訳にかけてみると「校内プレゼンコンペの1位がこちら!賞金も200ドル(?)出たよ!」という内容っぽい。

そもそもNational University of Managementって何さ

www.4icu.org

このサイトは「カンボジア大学ランキング」を紹介しているページ。何を基準に評価しているのかは謎である。このランキングの中では49校中13位という位置につけている辺り、アホ大学ではないんじゃないかな...と思いたい。

ただ、沿革や専攻科目については全然分からん。こんな時はWikipediaを見れば大体解決するので便利。

日本語記事が見つからなかったので、英語記事をざっくり翻訳してみることに。直訳?知らん。ただし「このページには信頼できる情報ソースがないよ!もしかしたら削除されるかもしれないよ!」という注意書きがあったので、本当かどうかは保証できぬ。

まずは概略から。

National University of Management (N.U.M.) is a business school in Phnom Penh, Cambodia, located near Phnom Penh Railway Station. The university provides training programmes to all people in the areas of Management, Economics, Commerce, IT, Business Law, Tourism, and Foreign Languages accompanied by research and development in response to the needs of job market.

 National University of Management (N.U.M.)はプノンペンのビジネス学校である。プノンペン駅近くに位置する。研究や求人市場に応じて発展する経営、経済、商業、IT、ビジネス法、観光、外国語の分野において、トレーニングプログラムを提供している。

トレーニングプログラムってなんだろう。研修とか、そういう感じのやつか。

ここから詳細内容。ちょっと文章が多い。私の乏しい英語力じゃ結構しんどいな。

The National University of Management was founded in 1983 as the Economics Science Institute (ESI) and, until 1991, received assistance from the in Hanoi, Vietnam. During this period, students were enrolled in a five-year undergraduate program with the Vietnamese language serving as the main language of instruction. The curriculum, set by the visiting faculty from Hanoi, included major fields in Finance, Commerce, Agriculture, Industry, and Socialist Planning.

 The National University of Managementは1983年にEconomics Science Institute(経済科学研究所[ESI])として設立。1991年までハノイのNational Economics Universityから援助を受けていた。その間、5年の学士課程は主にベトナム語で行われる。ハノイからの客員教授によって設定されたカリキュラムは、金融、商業、農業、工業、社会主義計画などの専攻分野が含まれていた。

もともと大学じゃなくて研究所、しかもカンボジアにあるのに8年間もベトナム語で教育されてたと。1983年から数年間はカンボジア内でベトナム軍がゴリゴリ暴れてた頃だし、その辺も関係してるんだろうな。ベトナム人が設立したのかもしれない。

With the opening up of Cambodia to the international community during the early 1990s, the ESI was renamed the Faculty of Business (FOB). Initial support for the FOB was provided by the Asia Foundation and later through a three-year USAID grant (1994 to 1997) by Georgetown University and the University of San Francisco.

 1990年前半、カンボジアが国際社会に開かれたことに伴い、ESIはFaculty of Business(ビジネス学部[FOB])に改名。アジア財団が初期援助を行い、その後3年間はGeorgetown UniversityとUniversity of San Franciscoによる補助金アメリカ合衆国国際開発庁(USAID)を通して援助された。

カンボジア内戦が終結した後、多国の大学との親交が始まった。ジョージタウン大学といえばワシントンDCにある名門大学。バスケもめっちゃ強い。OBにアイバーソンがいたりとかする。サンフランシスコ州立大学はクリエイティブ分野が強いらしい(適当)

This support provided teacher training, institutional development, and encouraged transformation of the curriculum along the lines of an international or American-style business school. Marketing and accounting majors were introduced during this period, and the length of the undergraduate program was reduced from five to four years of study. Commercial law course were added to the curriculum by the University of San Francisco Law School.

 講師の教育や制度の発展などのサポート、国際式・アメリカ式のビジネススクールに沿ったカリキュラムへの転換も推し進められた。マーケティング、会計などの専攻科目はこの期間に取り入れられ、学士期間も5年から4年へと削減された。University of San Francisco Law Schoolによって商業法の学科もカリキュラムに追加された。

アメリカ式の教育課程が導入され、着々と環境が整備されていったと。

In 2004, the FOB was transformed into the National University of Management (NUM); program offerings were expanded to include the fields of Tourism and Hospitality Management, Finance and Banking, and MIS. NUM opened the first MBA program in Cambodia in cooperation with the University Utara Malaysia (UUM), which is s state-sponsored university in northern Malaysia. NUM maintains a five-year faculty exchange and research program with the University of Antwerp, Belgium and has recently opened a Center for Entrepreneurship and Development in partnership with Fisk University (Nashville, U.S.) and Tennessee State University, sponsored by UNCF/USAID.

 2004年にFOBはNational University of Management (NUM)へと変わる。観光、ホスピタリティーマネジメント(接客経営?)、金融、銀行業、経営情報システムなどを含む分野にまで教育課程を広げた。NUMはUniversity Utara Malaysia (UUM)の協力のもと、カンボジア初の MBA取得プログラムを開講。また、ベルギーのUniversity of Antwerpと、5年の学部生交換留学、研究計画などの関係を維持している。その他にはFisk University、Tennessee State Universityと共に、国連児童基金(UNCF)とアメリカ合衆国国際開発庁(USAID)の支援を受けてアントレプレナーシップ開発センターを開業。

2000年に入ってから横の繋がりがガンガン広がっていく。カンボジア初のMBAが取れる学校とな。中々の名門なのかもしれない。

Currently, more than 10,000 students attend courses at NUM's main campus in Phnom Penh. NUM operates a full Bachelor of Business Administration degree program in Battambang with more than 700 students attending courses at NUM's provincial campus.

 現在では、10000人を超える生徒がプノンペンのNUMメインキャンパスに通っている。またNUMはバッタンバンに地方キャンパスを有し、そこでは経営学士の課程が行われており、700人以上の生徒が通っている。

すっげぇマンモス校じゃん。私がいた大学より遥かに人が多いぞ。さすが首都プノンペンの大学。

本題のプレゼン資料について。

Facebook上でNUMのアカウントに「このプレゼン資料をブログで紹介してもいい?」とメッセージを送ってみたところ、「Yes Sure」という超短い返事が返ってきた。一応だけど許可は貰えたのでご紹介。

メンバー紹介

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プレゼンチームはこの5人。女性4人に男性1人という内訳。ハーレムだね。

プレゼンテーマ

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プレゼンタイトルは「カンボジア縫製産業における最低賃金上昇の影響」という内容。なかなかお堅い感じ。

目次

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これは目次かな?最後の項目はなんて訳していいか分からんかった。

  • 1: イントロダクション
  • 2: 研究方法
  • 3: 最低賃金の展開
  • 4: 最低賃金上昇の影響
  • 5: 結論
  • 6: 推薦

1. イントロダクション

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これはカンボジアの輸出状況について紹介しているみたい。

  • 輸出の80%は衣類・フットウェア
  • 2015年前半、衣類・フットウェアの輸出総額は約30億ドル
    • (国際労働機関 - ILO調べ )
  • カンボジアには892軒の工場がある。そこで働く労働者の数は70万人ほどだが、このうち86%が地方出身の女性
    • (商務省の統計資料に基づいて作成された、カンボジア縫製製造協会 - GMACのデータより)

統計情報を資料に載せるにあたって、日本のアホ大生だったら「ソースは全部Wikipediaです!あとは推測です!」みたいなことをするヤツもいる。出典も銘記してるし絶対大丈夫だとは思うけど、ソースが正しいかどうか一応調べておくか。実際にILOのサイトからデータを見てみよう。

http://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/---asia/---ro-bangkok/---sro-bangkok/documents/publication/wcms_421104.pdf

まずは「輸出の80%が衣類・フットウェア」という点について。この調査報告書にしっかりと記述されている。

The sector(Grament and Footwear)’s exports represent some 80 per cent of the country’s total merchandise exports.

次は「2015年前半で輸出総額30億ドル」について。これもソースがバッチリ。

According to data recorded by the Ministry of Commerce, garment and footwear exports reached US$3.0 billion in the first half of the year

最後の「892軒の工場」「70万人の労働者のうち、86%が田舎出身の女性」について。

...これについてはソースを見つけられなかった。私の検索力不足。これだけ具体的な数字を出しているってことは、きっと何処かに確固たるソースがあるんだろうと思う。

実際、色んなサイトに「工場従事者の8割以上が、教育の行き届いていない田舎出身の女性である」と書かれていることが多かった。これはカンボジア国内でも問題になっているらしく、環境改善のためにアレコレしているらしい。へー。

輸出額の推移

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ここはILOの資料を完全に引用している。数値の説明とか交えつつ、プレゼンをしてたんだろうか。

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これは「統計資料はここから引用してるよ!」って言ってるだけのスライド。単一資料で終わらせず、色んな調査機関の資料を参考にしてるっぽい。少なくとも手は抜いていないことが分かる。

最低賃金の展開

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  • 最低賃金は1999年に40ドルから始まり、2015年1月1日時点で128ドルまで上昇し続けた
  • 2016年1月1日、最低賃金は140ドルまで引き上げられた
    • (国際労働機関 - ILO調べ )

これもILOの資料を読んで確認。

http://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/---asia/---ro-bangkok/---sro-bangkok/documents/publication/wcms_383562.pdf

Cambodia’s minimum wage for the garment and footwear industry was first introduced in 1997, when it was set at $40 per month. The rate has since increased to $128 per month, effective from 1 January 2015.

プレゼン資料に記載されてる1999年って、1997年じゃね?別に重要な情報でもないし、どうでもいいか。重箱の隅をつつくようなマネしてる自分が嫌になってくる。

The Government subsequently decided to increase the wage to US $140, effective from 1 January 2016.

最低賃金の話は結構ニュースになってて、各方面に波紋を広げてる。ネットニュースを流し読みした感じでは「悪影響の方が大きいから賃上げやめて!」って論調の方が多い気がしたけど、ニュース読まない層の意見はどんな感じだろうね。

縫製工場労働者数と最低賃金の推移

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これもILOの資料から引用したもの。

図解

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左図はILOの資料から引用したものだが、右図はWorld Bankのどこから引用したかが分からなかった。自分たちで作ったとしたら凄いな。

最低賃金に関わる情報を各国で比較している。左図は「非熟練労働者の最低賃金と最高賃金の割合」を、右図は「各産業における労働生産性」を示している。

この2つを合わせてみると「労働生産性がとてつもなく低い割に、最低賃金がやたらと高い」ということが分かる。

問題提起

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スライドイメージが急にダークトーンに。話題転換を印象付ける良い手法。

最低賃金上昇の影響

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  • 労働者、工場、経済...それぞれの立場から、3ステップに分けて考える

順序立てて説明する、というプレゼンのテク。しっかり構成が練られている。

労働者にとっては

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  • 失業状態→より良い生活水準

...最低賃金の話なのに、なんで失業状態から話がスタートするんだろう。最低賃金が上がることと、職に就きやすくなること。このふたつを矢印で結びつけるイメージに対して、どうしてもしっくりこない。スライド資料だから足りない部分は口頭でフォローしてるんだろうけど、やっぱりロジックとしておかしいような。

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けど、実はこういう事例もあったりする。「労働者の収入が増える→お金を使う→経済活性化→失業率改善」ていう流れで論を展開してたのかな。さらにいろいろ調べてた結果、驚きの事実が。

www.cambodiadaily.com

カンボジア失業率、なんと0.5%という驚異の数値。給料はともかくとして、ほぼ全員が何らかの職に就いていることになる。ちなみに日本の失業率は3.3%、フランスは10.6%である。カンボジアの数字が異常であるのがよく分かる。

単純に考えてみれば、最低賃金が低さがそっくりそのまま失業率が低さに結びついているんだろうな。まさに選り好みしなけりゃ仕事はいくらでもある、ただし低賃金だけど...というのがカンボジアの現状らしい。

ただ、カンボジア人の教育レベルと労働生産性は低い。その割に国内に外国人が多い。実質的には「使う側の外国人」「使われる側のカンボジア人」という支配・被支配の仕組みが出来上がりつつある。物価も考慮すると、カンボジアで同じ論理が通用するかどうかは謎なところ。

工場にとっては

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  • 人件費が増えたせいで利益が減る、高すぎる人件費に耐えかねて工場移転、最終的には破産する

破産までは行かないにしても、上がり続ける人件費に耐えかねて移転した工場が増えてるのは事実。人件費高騰が工場にとって悪条件であることに変わりはないし。

経済にとっては

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  • 貧困が減り、投資が減り、輸出が減り、失業率が上がる

最低賃金を上げるのは全体で見るとマイナスだ、というのが彼らの見立て。私もそう思う。さっきの図でも明らかだが、労働生産性最低賃金が明らかに釣り合っていないもの。

貧困の減少

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  • 労働者がもっと給与を得ると、より良い環境で暮らせる
  • カンボジアは縫製業の確かな実績により、低位中所得に近づきつつある。この成長が2015年から2016年まで続くと期待されていた

日本経済研究センター JCER ASEAN各国、「罠」克服へ政策努力―先行きには不透明感も

このサイトからの引用になるが、貧困国、低位中所得、高位中所得、高所得...という区分がある。その基準で見れば、カンボジアは未だに貧困国という括りだ。

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一人あたりの国民総所得が1036ドルを越えれば、低位中所得国に仲間入り。カンボジア経済を牽引しているのが縫製産業なんで、そこが頑張ってくれないと貧困国から抜け出せないぞ!ていうことらしい。

投資と輸出の減少

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  • 最低賃金の引き上げは投資家を落胆させる
  • 2015年の間にカンボジアからミャンマーへの工場移転は150件ほど
  • 投資減は輸出減へと繋がる
    • 縫製業が輸出の80%を占めているのに...

縫製業が経済成長のキーなのに、そこへの投資を鈍らせたらアカンやろ!最低賃金引き上げとかやめてくれや!っていう感じでプレゼンしてたのかね。

失業率の上昇

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  • 投資減は失業率の悪化を招く
    • ちなみに約70万人が縫製産業で働いている

そらそーだ。いまのところ失業率0.5%という驚異の数字を保っているものの、輸出の80%を占める縫製産業が衰退すれば、それに伴って職を失う人も増える。縫製産業に従事する田舎出身の女性たち — 教育水準の低い非熟練の人材の受け皿が、果たしてこの国にあるのだろうか。

結論

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正の効果って...労働者の水渇水準がちょっと良くなるぐらいしか思いつかない。というかマイナスが大きすぎる。プラマイで言うたら確実にマイナス。経済成長が外国頼みのカンボジアにおいて投資が減ったらいかんでしょ。

プレゼン資料の印象

彼らのプレゼン資料はこれで全部。全体的によく出来てる。日本のヘタな大学生よりしっかり調べてんなぁ、という印象。

だけど今回色々と調べながら少し残念に思ったことがある。それは、おそらく彼ら自身で作成した表・グラフ・文章は限りなくゼロに近いという点だ。

第一印象では「統計データの分析もしっかりやってる!カンボジアの学生すごいじゃん!」と思うかもしれないが、スライド資料の9割は統計資料からそっくりそのままコピペしたもの。統計資料の紹介をしているに過ぎない。その辺日本のダメ学生と似てるなぁ。私自身がそうだったからよく分かる。

彼ら自身が「考えて」「分析して」「視覚化する」というプロセスを経ていない。エクセルのようなソフトでデータ分析をすることなく、ただ資料をスクラップしただけ。たぶん、彼らはPowerPointで簡単なスライドは作れてもExcelとかはほとんど使えないんじゃなかろうか。

ただ、日本のダメ学生よりしっかりやってるのも事実。そこは本当にスゴい。彼らが卒業したあと、一体どういう職業に就くのかが気になるなぁ。

おまけ

The Cambodia Dailyで、最低賃金に関わるこんな記事を見つけた。

www.cambodiadaily.com

その中の一部、労働省の高官のコメントを抜粋。

“This [raise] is the result of scientific study and I believe there will be no impact for the investors” Mr. Sam Heng said. “$140, compared with some of our neighboring countries, makes us higher, so there could be some competitiveness issues. But we have our strong points to attract investors.”

最低賃金引き上げは科学的な調査に基づく結果です。投資家たちへの影響は一切ありません」と労働省のサム・ヘン氏は答えた。「140ドルという数字は近隣諸国と比べて高い。競争力の問題が出てくるかもしれません。しかし、投資家にとって魅力的な強みがカンボジアにはあるのです」

大学生ですら分かることが、労働省の人間で分からないってどうなのよ...。

東南アジア内でも最低ランクの生産性の低さなのに、ただでさえ高い最低賃金を引き上げる。この悪条件を覆すだけの強みってなんだろう。自信たっぷりな割に具体的な数字が一切出て来ないじゃないか。いかんでしょ。